亀岡中学校 人権講演会を聴いて(人権週間にちなんで)
毎年12月4日~10日は人権週間です。令和7年12月5日に、子どもの通う中学校でひらかれた人権講演会に参加しました。
講師は、和泉大津市にある自立生活センター・リアライズ代表・三井孝夫さんです。

「あきらめの人生から抜け出せ!」
講師:自立生活センター・リアライズ 代表 三井孝夫 さん
三井さんは先天的な病気で、骨がもろく、歩くことができず、電動車イスでの暮らされています。
穏やかな語りの中に、当事者として障害をどのように考えているか、率直な言葉で語られました。
障害をめぐる私たちの思い込みを解き、「ともに生きる社会」とは何かを考えさせられました。
ここでは、特に心に残ったお話をご紹介します。
■ 障害はマイナスではなく、“環境の問題”として見直す
社会には障害はマイナスであるという考え方があります。
三井さんはこれは偏見で、障害があっても、マイナスでもプラスでもない、という考え方をしています。
障害があるから生活しづらいのではなく、
生活の中に“障壁”があるから生活しづらいのだ。
車椅子で2階に行けないのは「歩けないから」ではなく、「階段しかないから」。
エレベーターがあれば、そこはもはや“障害”ではありません。
これは、障害を個人の問題とする「医学モデル」から、
環境を整えることで可能性を広げる「社会モデル」への視点の転換です。
さらに三井さんは、人権に基づく「人権モデル」に触れ、
本来は“バリアがあること自体がおかしい”という社会を目指す必要を説かれました。
そうなれば、障害者を普通に受容する社会になると。
■ 「一人でできること」へのこだわりを手放す
三井さんは、小学校では、みんなとともに楽しい学校生活を送っていたので、自分が障害者だという感覚もほとんどなかったそうです。
しかし、新しい治療法が見つかり、小学3年生から、周りの大人から「歩けるようになるための治療」を勧められました。
しかし本人には、「歩きたい」という願いはなかったと言います。
周囲は「一人でできるように」という善意から治療を勧める。
しかし、本人はそこに価値を感じていない。
この“すれ違い”は、多くの場面で起こっていることではないでしょうか。
三井さんは言います。
一人でできることなんて、たかが知れている。
大切なのは、やりたいことを諦めないこと。
車椅子なら数秒でできることに10分かける必要はある?
大切なのは 自力へのこだわりではなく、人生の時間をどう使うか という視点でした。
誰かのサポートや道具を使ってもいい。
大切なのは、自分のやりたいことができているかどうか。
■ 感動の対象ではなく、対等な一人の人間として
中学・高校では自分の障害を意識するシーンも増えたといいます。
その当時は、三井さん自身も、「障害があっても一人で頑張れる自分」を無意識にアピールしていたといいます。
しかし、それは“健常者を感動させるための努力”にすぎなかったと気づいたそうです。
これは「感動ポルノ」と呼ばれ、
障害者を下に置いたうえで“頑張り”に感動する構造が隠れています。
大学時代、重度の障害があっても一人暮らしをしていた先輩との出会いが、
三井さんの価値観を大きく変えました。
できないことを「できません」と言っていい。
困ったときは助けてもらえばいい。
その方が、ずっと自由に生きられる。
その気づきは、私たちが肩の力を抜いて生きるヒントにもなります。
■ キーワードは「違いを認める」より「一緒に考える」
最近よく使われる言葉に「違いを認める」があります。
しかし三井さんは、それよりも 「一緒に考える」 を合言葉にしたいと話されました。
障害があっても「当たり前の人生を生きたい」。
その願いを支えるのは、周囲の“工夫しようとする心”です。
この姿勢は、仏教が説く「縁に生かされ、縁を生かす生き方」にも通じます。
■ やりたいことを諦めない社会へ
印象的だったのは、「だんじり祭り」の話でした。
今、三井さんには娘さんがいらっしゃいます。
「パパと一緒にだんじりをしたい」という娘さんの声。
三井さんは、昔はだんじりに参加していた時期もあったようですが、遠慮もあって、遠ざかっていたそうです。
さらに、娘さんの「だんじりの段差はなくさないの?」という子どもの素朴な問いかけ。
その一言から、仲間たちが「一緒に考えよう」と知恵を出し合い、
わずか1年で観覧席のバリアフリー化が実現したそうです。
やりたいと言ったからできた。
力を合わせてくれる仲間がいたから実現した。
この出来事が示すのは、
“環境が整えば、障害は障害でなくなる”という確かな事実です。
■ おわりに
三井さんは語ります。
僕は、生まれてきてよかったと思っている。
障害のある人生は、めちゃくちゃ面白い。
この言葉に、深い喜びと誇りがにじんでいました。
三井さんのお母さんは、障害のある子の将来を悲観して、「一緒に死のうと考えたこともあった」と、聞いたそうです。
「勝手に殺さんといて」と冗談をいう三井さんですが、それでけ障害がマイナスであるという偏見がはびこっていることも理解しています。
「障害者が生まれても、心からおめでとうと言える社会」、三井さんはそんな未来を描いています。
最後に、三井さんは生徒にそう呼びかけました。
みんなのことを、ちょっとだけ考える。
その心の余裕をもってほしい。
そうすれば、社会をあたたかくする。
「障害は個性」という一言で話を終わらせるのではなく、
どうすれば誰もが“やりたいことを諦めずに生きられるか”を私たち一人ひとりが「一緒に考える」こと。
このことは、健常者・障害者にかかわらずすべての人に大切なことだと思います。
「障害は環境次第で、誇りにも価値にもなる」
三井さんの力強い言葉に、心打たれ、自分の中にある偏見に気が付かされました。


