「アンパンマン」に託された思い(法話)

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、アンパンマンの生みの親・やなせたかしさんとそのご夫人の歩みを描いた作品です。
アンパンマンは、あんパンでできた顔を与えて人を助けるヒーローです。

 私はその姿が、お地蔵さまに重なるように思えてなりません。
 丸い顔、赤いマント、何より子どもたちの味方であるところは、まさに地蔵菩薩のようです。

  やなせさんは従軍中、極度の空腹を経験し、戦後、それまで信じていた「正義」が一転する現実に直面しました。
そうした体験から、「本当の正義とは、お腹をすかせた人に一片のパンを与えることだ」という信念を持つようになったそうです。

今年は終戦から80年。
お寺の過去帳にも多くの戦没者の名が記されています。
戦争を体験した方々が少なくなる中、記憶の風化が進んでいます。
一方で、世界は自国第一主義が広がっている状況。

 「平和ボケ」と揶揄されることもありますが、平和を願い祈ることは無意味ではありません。
その心なくして、平和は築けないと思うのです。

お釈迦さまはこう説かれました。

― すべての者は暴力をおそれ、命を惜しむ。 わが身にひきくらべて、殺してはならない。 殺させてはならない。――

 この言葉を胸に、あらためて「平和」について考えてみたいと思います。

昌寿院 住職  大井龍樹 合掌

令和7年7月発行「おてらだより」より