悟れば好悪なし（令和7年４月）

悟れば好悪なし

悟れば好悪 無し

「好き嫌いせず、残さず食べましょう」

子どもの頃から、家庭や学校で何度も教えられてきた言葉です。
食べ物を粗末にしてはいけない、栄養のバランスが大切――そのような気持ちが込められています。
好きばっかりでもダメなんですね。

私は、この言葉の中に、日本の心や美徳、そしてその根っこに仏教の教えが息づいていると感じています。

悟れば好悪なし

『信心銘』というお経にあるこの言葉。文字通り、目覚めた人には「好き」「嫌い」といった分別がない、という意味です。
私たちには、「これは好き」「これは嫌い」という心があり、それに執着してしまうのですが、その心のありようが、私たちを苦しめているというのです。
お経の中では、仏道の障壁となるのは、「好悪」の分別心であり、そこから離れる重要性が説かれています。

現代は、モノや食べ物、さらには情報までもが、自分の好みに合わせて選べる時代です。
「好き」ばかりに囲まれて生きることを目指す人もいるでしょう。
そんな中で、私たちは、「選ぶ自由」に慣れすぎて、「選ばない尊さ」があるということを忘れてしまってはいないでしょうか。

これは好き・ あれは嫌い・ これは自分に合う・ あれは無理・・・

そんなふうに、日々「好悪」を基準に世界を見ていると、いつのまにか心が狭くなっていきます。
そして、その好き嫌いも自分の心と共に移り変わっていく

ー さとれば好悪なしー

「好き」「嫌い」を意識的に手放してみる。
そうすれば、世界はもっと広く、やさしく、そして深く見えてくるはずです。

自分自身の物差しを一度横に置いて、仏さまの物差しを使ってみる。
そうすれば、心はきっと、もっと自由になるに違いありません。

住職　大井龍樹　合掌